著者: Sekiya

ソニー銀行、BIツールでマクロから脱却。ツール選択はどうした?

ケーススタディー
Oct 04, 20231分
金融サービス業

ビジネス成長や競合との差別化を実現するために、多くの企業がデータ活用に取り組んでいる。一方で、取り組みの過程には「データの収集」「人材不足」などをはじめとするさまざまな課題がある。本稿は、これらの課題を乗り越えデータドリブン経営を実現しているのがソニー銀行の事例を紹介する。

Japan Tokyo cityscape
クレジットShutterstock / Maroke

 昨今のビジネス環境で「データドリブン経営」という言葉は決して珍しいものではなくなった。ビジネスの成長や競合との差別化を目的に、データ活用に取り組む企業が増えたからだ。

 しかし、一概にデータ活用といってもそれを実現する過程には多くの課題があり、それらは「データがどこにあるのか分からない」「どのように収集し、可視化するのか分からない」「データ分析を推進するだけの人材がいない」など多様だ。

 このような課題を解決し、データ活用を推進しているのがソニー銀行だ。同社におけるこれまでの取り組みを、データアナリティクス部で部長を務める伊達 修氏に聞いた。

ソニー銀行が抱えていた課題とは

 ソニー銀行のデータアナリティクス部は、2001年に同社が設立されてから「顧客動向を分析し、一人一人に最適なサービスを最適なタイミングで提供する」ことを目的に業務を行っている。

 「ソニー銀行がデータ活用に本格的に取り組むようになったのは、社内のデータが散在し、管理自体も属人化していたためです」

 伊達氏はデータ活用に取り組む前の状況をこう話す。社内で必要なレポートなどは各担当者が複雑なマクロを用いて手作業で行い、それぞれが異なるデータに関するルールや定義を持っていた。作業時間も膨大で、仮に担当者が不在になれば、レポート作成などの業務は停滞していた。

 このような状況を受け、ソニー銀行はデータ活用の本格化を決めた。目指すべき姿として伊達氏は「まずはデータを一元化し、データ更新の簡素化や迅速なレポート作成を実現したいと考えました。これらができれば大幅に業務が効率化されます」と話す。

 この実現のために、同社は「日次での自動データ取得・更新」「データ定義の統一」「データによる迅速な意思決定」が重要だと判断した。データ定義の統一に関して伊達氏は「担当者によって、重要なデータや意思決定に反映すべきデータ、無視すべきデータのラインが違いました。これではデータ分析の粒度が変化し、分析後に『本当にこの結果は正しいのか』という疑問につながります。この定義を明確にすることで、データ分析の前提条件がそろい、結果を信頼できるようになります」と解説する。

 これらを行うためには、自社に合ったBIツールの導入が不可欠だとして、ソニー銀行は「Domo」を選択した。Domoは米国のユタ州に本社を置き、世界で2000社以上の導入実績を持つ企業で、あらゆるデータを統合、可視化し、データ活用の促進を目的としてBIツールを提供している。

なぜDomoを選んだのか

 さまざまなITベンダーがBIツールを提供しているが、ソニー銀行はDomoを選択した。この理由を伊達氏に聞くと「まず画面がシンプルで、従業員にとって使いやすいのが大きかったです。全社的なデータ活用を浸透させる際に、使用が複雑なツールは得策ではありません」と語る。同氏によると、他のBIツールだと各種メニューの変更などにも担当者への電話などが必要で、使い勝手が悪いという。この点、Domoであれば管理メニューから全てを変更でき、ユーザーの負担が少ないという。

 データ分析に馴染みのある従業員であれば、どんなBIツールでも使いこなすかもしれないが、従来業務がデータに関係していない従業員のことを考えると、「使いやすさ」「シンプルさ」は非常に重要な要素だ。実際に「BIツールを導入したが、使い方や見た目が複雑で活用が浸透せず、今では使っていない」という失敗談も多い。

 では実際に活用実績は伸びているのだろうか。

 ソニー銀行は2019年6月にDomoを導入し、当時のユーザーは社内でデータに携わる業務をしていた6人だけが使用していた。その後の取り組みとしては、2020年9月にレポートに活用し始め月次レポートが日次で発行できるようになった。さらに、2021年4月にはデータ活用のチーム制ルールを導入した。これを使い、営業報告に関するデータを日次で行えるようになった。その後、UIの改善や部署だけでなくデータ分析を目的としたチームの増設などを経て、2023年6月でユーザー数は90人に増えたという。また、Domoへの月間ログイン数も過去最高を達成しており、まさに「全社的なデータ活用」が根付いてきていると言える。

 「月次更新ダッタデータを日次化できたことは特に大きな変化でした。Domoを見るだけでデータのサマリーや主要KPIを確認でき、業務効率が向上しました」(伊達氏)

ソニー銀行における営業報告のためのDomo画面の例(提供:ソニー銀行)

各部署での連携強化

 Domoの特徴に、「前日時点のデータ閲覧ができ、リアルタイムに近いデータを確認できる」というものがある。これについて伊達氏は「日々追っているデータが自動的に更新・可視化されるため、各担当者は迅速なアクションを取れるようになりました」と変化を話す。

 例えば、ソニー銀行のローン業務部では、レポートのキャプチャを部員にメールで展開することで、メンバー全員が迅速にその日の成果を知れるようになった。本店営業部では、会議でDomoのレポートをそのまま投影し、会議資料の作成といった手間を省いている。

 「空いた時間を議論などに充てることができます。また、会議で同じデータをその場で確認できるので、データ認識に相違なども起きません」(伊達氏)

 マーケティング部/商品企画部では、データをエクスポートし、他の報告資料作成に利用している。Domoはデータを可視化して表示するが、その裏にあるデータ自体をエクスポートすることが可能で、データ収集の工数も省くことができる。

 伊達氏は「データ活用で従業員の考え方にも変化が起きました」と話す。その例として、社内からは「データを活用しないでこれまでどのように企画会議をしていたのか」「BIツールの画面をそのまま会議で使える。余った時間は本来の業務に充てられる」など、データ活用によるポジティブな意見が出ているという。

データ活用で業績は本当に伸びるのか

 伊達氏によると、データ活用によるメリットは業務自動化だけではないと話す。

 「ソニー銀行の業績はデータ活用を始めてから大きく伸びています。データ活用だけが要因とは言えませんが、大きく寄与していることは間違いありません」(伊達氏)

 データを活用することによって、顧客ニーズの把握が正確にできるようになる。例えば、データの結果、特定の年代が好むサービスが明確になれば、営業活動の際に営業先を絞り込み、効果的にアプローチできる。

 ソニー銀行が発行している「ディスクロージャー誌」(2023年)によると、実際にソニー銀行の業績は業務粗利益、営業経費、経常利益共に右肩上がりだ。全ての要因がデータ活用にあるとは断言できないが、データ活用によって業務が効率化され、余った時間を本来の業務に充てられるというのはビジネス上の大きなメリットになる。

 「銀行というビジネスモデルは規制も厳しく、データの取り扱いなども簡単ではありません。ただ、ソニー銀行はネット銀行としてビジネスを拡大しており、BIツールなどの活用も比較的容易に推進できました。また、データを多く抱えているというメリットもありました。他の業界でも、気付かぬところに貴重なデータがあったりします。それらのデータをいかに可視化し、ビジネス成長に生かすかが重要になっています」(伊達氏)

ソニー銀行が目指す未来の姿

 データ活用によって従来の課題を解決し、ビジネス成長を実現しているソニー銀行だが、現在は別の課題も抱えている。

 これについて伊達氏は「データを集約し活用していますが、データ需要の高まりを受けて担当者のリソースがひっ迫してきています。また、各部署におけるデータや分析に関するノウハウが希薄化しており、全社的にDX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組みが停滞しています」と現状を話す。

 この解決に向けては、「各部署で機動的に分析施策を実施するためにフェデレーション型へのシフト」「データ部門が各部の分析施策をサポートし、分析ツールをコーディネートする」といった施策を今後は行う予定だ。段階ごとの取り組みになるが、従来の分散型でのデータ活用ではなく、中央集権型にまずは移行しデータを集約、その後にフェデレーション型に移行し、各部門の機動性を挙げることで、さらなるビジネス成長を目指す。

 「データは増え続けており、分析に終わりはありません。いかに効率よく分析し、ビジネスを進化させるか。今後もこの課題は尽きません。データ活用に取り組みたいと考えている企業も、まずは小さく始めてみて、徐々に全社に広げましょう。重要なことは継続することです」(伊達氏)

 Domoはクラウド型のBIツールであるため、サーバなどを用意する必要がなく、使い始めやすい一方で、自社に合ったをカスタマイズを行いたい企業などには向いていないと言える。この点は自社で“データ活用で目指す形”を明確にし、適したツールを選定することが大切だ。

 データ活用は難しいと思われがちだが、少しずつ改善を重ねて取り組めば自社に合ったスタイルが見つかるはずだ。課題を常に見つけ、解決策を模索するソニー銀行の姿勢や考え方は、業界・業種に関係なく参考になるだろう。