DX(Digital Transformation)という言葉が一般化して久しくなりました。多くの企業が、AIやIoT、クラウドなどのデジタル技術を導入し、事業・業務や組織風土を変革して、生産性向上や新たな価値創出に取り組んでいます。
はじめに:DXの成否を決めるのは「技術」ではなく「ヒト」である
DX(Digital Transformation)という言葉が一般化して久しくなりました。多くの企業が、AIやIoT、クラウドなどのデジタル技術を導入し、事業・業務や組織風土を変革して、生産性向上や新たな価値創出に取り組んでいます。
しかし、その一方で、
ITツール・システムは導入したが業務が変わらない
PoCを繰り返しているが、PoC止まりで本番展開につながらない
現場・全社員がDXを自分事として捉えていない
といった課題も数多く聞かれます。
なぜ、このようなことが起きるのでしょうか。
その本質的な原因は、DXを単なる「デジタル技術導入プロジェクト」として捉えてしまっていることにあります。
DXの本質は「D(Digital)」ではなく、「X(Transformation)」、つまり「変革」です。 そして、その「変革」を実行するのは、いつの時代も「ヒト」です。
どれほど素晴らしい優れた戦略を描いても、どれほど高度なAIを導入しても、それを使いこなして「実行」し、成果につなげる人財がいなければ、戦略は「絵に描いた餅」で終わり、DXは前に進みません。これからの時代、CIOに求められる最も重要な役割の一つは、DXを「実行」できる人財を育成することにあると私は考えています。
DX人財とは、「ITに詳しい人」ではない
ここでまず整理したいのは、「DX人財」とは何かという点です。
DX人財というと、データサイエンティストやデジタルコンサルタント、AIエンジニアのような高度専門人財をイメージしがちです。もちろん、そのような専門性は重要です。しかし、DXを本当に推進するためには、それだけでは不十分です。
DXで本当に重要なのは、
経営・業務課題を理解し
顧客視点で価値を考え
デジタル技術を手段として活用し
周囲を巻き込みながら変革を実行できる人財
です。
つまり、DX人財とは、単なるIT人財ではありません。
「課題 × デジタル = 価値」
の方程式を実際の業務・組織・顧客体験へ落とし込める人財です。
関西電力グループでも、「AIがあることを前提として業務を再構築する」というAIファースト企業への転換を掲げていますが、その実現には、AIを「使ってみて便利なツール」ではなく、「武器として使いこなす・使い倒す」対象として、「組織のDNAやOSに組み込む」ことができる人財が必要不可欠です。
DX人財戦略は、研修施策や人事施策ではなく「経営戦略」である
まず重要なのは、DX人財戦略を「研修施策」や「人事施策」に閉じ込めないことです。
DX人財育成とは、本来、
どんな会社を目指すのか
どんな競争優位を築きたいのか
どんな価値を顧客・社会へ提供したいのか
という経営戦略そのものと密接につながっています。
例えば、
AIを活用して業務の生産性を飛躍的に向上させたい
データドリブンで経営の意思決定の高度化を図りたい
顧客体験をより良いものに変えて、顧客満足、NPSを向上させたい
のであれば、それを実行できるDX人財戦略を定義し、その育成を戦略的に進めなければなりません。
「DX人財戦略」の策定にあたって、私自身が心がけていることが1つあります。それは「タテの一貫性とヨコの整合性」により、「人と組織を、戦略と整合させること」です。

まず、「タテの一貫性」とは、
1、「経営理念(ミッション・ビジョン・バリュー)」や「事業戦略」
2、それを実現する手段としての「DX戦略」
3、それを実行できる人を育てる「DX人財戦略」
4、戦略の実行に大きな影響を与える「組織風土」
これらの大きく4つについて、考え方・意味づけ・ルール・行動などが、最初から最後まで同じ方針や筋道で保たれているという「一貫性」です。
次に、「ヨコの整合性」とは、DX人財戦略に特に影響を及ぼしやすい
「組織」の階層(縦)や部門(横)、ルール・責任・権限、社員のコミュニケーションと取り方やエンゲージメント
採用→配置→育成→評価→報酬のサイクルからなる「人事制度」
について、DX人財戦略と互いに矛盾せず、つじつまが合っているという「整合性」です。
この「タテの一貫性とヨコの整合性」に少しでもほころびがあると、聴き手は内容そのものよりも先に、「何か、どこかおかしい」「信用してよいのか」という違和感を抱いてしまいます。
・方針や主張がいつの間にかブレてしまっていないか。
・部門・資料・発言・行動の間で矛盾がないか。
その両方がそろってはじめて、説明には説得力が生まれ、組織や人への信頼も積み上がっていきます。だからこそ、物事を伝えるときには、方針・主張の流れの中にある「タテの一貫性」と、関係者・情報・行動の間にある「ヨコの整合性」を丁寧に確認することが重要であると私は思います。
「知っている」だけでは、DXは進まない
もう一つ、DX人財育成で陥りがちな落とし穴があります。それは、「知識習得」が目的化してしまうことです。
例えば、
DX研修を受講した
AIツールの使い方をeラーニングで学んだ
社外のDXセミナーを受講した
これらは確かに必要です。しかし、それだけでは人や組織は変わりません。
重要なのは、「知っている」ことではなく、「実行できる」ことです。実際、多くの組織では、
研修では理解した
セミナーでは盛り上がった
でも現場では何も変わらない
という現象が起きています。これは、「知識」と「実行」の間に大きな壁があるからです。
関西電力グループではDX・AI戦略の中で「DX人財戦略」として、人財像・育成人数・研修体系を明確化し、社外公表しています。

・対象者を高度DX人財/DX推進者/全社員の3層に分類
・IPAの定めるデジタルスキル標準(DSS)に基づきスキル・マインドセットを定義したDX人財戦略を策定。人財像・習熟度毎に必要な人財育成施策として、2025年度は全31講座の研修コンテンツを提供
・研修コンテンツの更なる拡充等により、2028年度末に高度DX人財約70名、各部門のDX推進者約5,000名の育成を目指す
このDX人財戦略の実行で大切なことは、
組織全体で人財像ごと、習熟度レベルごとの人数を測定し可視化すること
単に研修受講だけで終わらせるのではなく実務に活かすことで、「知っている」→「実行できる」→「教えられる」のように習熟度をレベルアップしていくこと
だと私は思います。
「褒める」は、すぐできる最高の手段
関西電力グループでも、DX人財戦略と人事制度、つまり「採用→配置→育成→評価→報酬」との整合性は非常に意識しながら進めています。このうち、「DXのスキルが高く、事業や業務で成果を上げた人が、高い金銭的報酬を得る」という理想は、誰もが思いつくものの、実際にやろうとするととても高いハードルが待ち構えているのが現実です。
そのような状況でも、すぐに実施できてかつ最も効率的なおすすめは、「褒める」という社内外の表彰制度の活用です。

関西電力においては、社内表彰として、年に1回実施している「KANDEN Digital Day」という関西電力グループ約1100名が参加するDXイベントで、DXで活躍し成果をあげていただいた方を「DXな人たち」として表彰したり、「カスタムGPTコンテスト」として、優秀なカスタムGPTを作成・活用いただいている方を表彰したりしています。
また、IT・DXなどの社外表彰制度にも積極的に応募しています。最近では8件もの賞に選定いただいており、直近では、経済産業省、東京証券取引所および独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が共同で実施する「DX銘柄2026」に電力会社として初めて選定いただきました。
このような表彰制度で賞に選ばれると、そのDX施策をやっている人は、自分自身がやっていることが「社会的評価」を得ることができて「喜びという精神的報酬」を得られるだけでなく、それが「自己肯定感や自信」に変わり、さらなる「やる気・やりがいの源泉」となり、「個人および組織の成長」へとつながるという、好循環サイクルが回り始めます。
この施策のもう一つの大きな効果は「評価・報酬⇒採用」へのフィードバックサイクルです。社外表彰制度で賞に選ばれると、関西電力のDXに関する「良い評判情報」がインターネット上に出回ります。それを見た学生の皆さんや、他企業でDXをやっている人が、「関西電力ってDXが結構進んでいるんだなあ。色々と先進的で面白そうなことができそうだから、是非就職して一緒にやってみたい!」と思ってもらえるように、つまり、表彰という「評価・報酬」が「採用」にポジティブフィードバックされる世界を実現したいと思います。
また、AI時代においては、「ヒトに選ばれる」だけでなく、「AIにも選ばれる関西電力でもありたい」とも考えています。
・「最新情報をもとに、エネルギー業界の中で、DXが進んでいる企業のランキングを作ってください。なぜそのように判断したのかの根拠も示してください。」
・「最新情報をもとに、関西企業の中で、DX人材として就職をお勧めする企業のランキングを作ってください。なぜそのように判断したのかの根拠も示してください。」
生成AIにこれらのプロンプトを入力した際、「1位は関西電力です」と答えてもらえるような存在であり続けられるように、日々精進・成長していきたいと思います。
CIOは「戦略実行/組織変革の人財育成責任者」である
ここまで述べてきたように、DX人財育成は単なる研修・教育の実施ではありません。経営理念、戦略、事業・業務、組織風土のすべてとつながっています。
だからこそ、CIOには「技術導入責任者」ではなく「戦略実行/組織変革の人財育成責任者」としての役割が求められます。特にAI時代においては、「AIを使える人」ではなく、「AIと協働して戦略を実行し価値を生み出せる人」と「その実現に向けて組織変革を進めていける人」をどれだけ増やせるかが、これからの企業競争力を左右することになると私は強く思います。
おわりに:人財育成こそ、最大のDX投資である
DXの世界では、つい最新技術や新しいツールに目が向きがちです。しかし、最終的に企業を変えるのは、いつの時代も「ヒト」です。
・課題を見つけ
・顧客価値を考え
・AIを使いこなし
・周囲を巻き込み
・変革を実行する
そうした人財が増えたとき、DXは初めて組織に根付きます。
DXを「実行」できる人財の育成とは、単なるスキル教育ではありません。それは、「変化し続けられる組織」をつくることそのものです。
AI時代だからこそ、「ヒト」の価値はむしろ高まっています。CIOには、技術だけでなく、「ヒトの可能性」を信じ、育て、解き放つことが求められているのではないでしょうか。
次回の予告:【第7回】安心して挑戦・失敗できる組織風土を戦略的につくり込む――DXを加速する最大の競争優位は「組織文化」である
・DX最大の敵は「失敗」ではなく「挑戦しないこと」
・「心理的安全性」がなければ、人は挑戦しない
・「学習する組織」へ進化できるか
など


